幼馴染が結ばれるだなんて、そんなのは恋愛ドラマの中だけで起きる現象だ。実際の幼馴染なんていうものは、お互いの親兄弟は当然顔見知りで家庭事情も筒抜け、男か女かなんていう目で見たことはないから男友達でも女友達でもなく、あくまでも、単なる「幼馴染」だ。
 私と宇髄天元は同じ産院の同室で一日違いに産まれたもんだから、臍の緒が取れたてほやほやの頃から知ってる。母親同士が意気投合したため退院後もしょっちゅう会っていて、いつからハイハイし始めたかも、歩き出した記念日も知ってる。初めて口にした言葉だって。私は天元の名前で、天元は私の名前だった。
 別々の子宮から出てきて血が繋がっていないだけで、もはやほぼキョウダイだ。キョウダイ寄りの幼馴染。――それで済ませておけばいいのに、どうも人間の心は複雑にできているようで……なんとまあ面倒なことに、私はそんな幼馴染に惚れてしまっている。男か女かで見たことはない、なんて思おうとしているだけで、実際には、めちゃくちゃそういう目で見ている。

 これが恋だと気づいたのは、中学に入ってからだ。
 日ごとに背が伸び筋肉量が増えていく天元を横目で見ながら、私の心臓はドックドク高鳴っていた。天元が私の名前を呼んで無邪気に笑うたびに、心臓がぎゅうっと締め付けられる。
 異性相手なら何にでも反応してしまう思春期特有のものかなと思って、他の男子で試してみた。でも、ハンドボール部のムキムキ男子の腕を触らせてもらっても全くトキメかなかったし、バスケ部の主将にお姫さま抱っこをしてもらっても不快感しかなかった。
 積極的に男子の体と触れ合いに行く私を、天元は「ハレンチ」とからかった。そう言った後で、必ず自分も同じことをしてみせるのだ。私の手を取って自分の腕に押し付けたり、私の体をひょいと持ち上げたり。
 天元にお姫さま抱っこされた私はしばし市場のマグロのように硬直していたが、「パンツ見えるから下ろして」とかろうじて声を振り絞った。「そんなもん誰も見たくねぇだろうが、まあお前の尊厳のためにも」と言いながら下ろしてくれた天元は、反応をうかがうように私の顔を覗き込んだ。その蘇芳色の目に、私は自覚した。――これは恋である、と。この気持ちを知られるのが恥ずかしかった。それに、今までの関係が崩れてしまいそうで、怖くなった。だから言ってしまった。とっさに。

「気安く触んないで。私、好きな人いるから……その人に勘違いされたくない」

 それ以来、天元が私に触れることはなくなった。

 高校に入って、卒業して、大学に入って。私たちは幼馴染として変わらず一緒にいたけど、それだけ。天元はモテるので、一時期は女の子を取っ替え引っ替えしていた様子だった。特定の恋人は作らないらしく、天元いわく「気楽に遊べる子」が常にいる状態だった。私はそれを陰ながら「宇髄ガールズ」と呼んでいる。
 私は変わらず恋心をこじらせ続けているけれど、天元の女遊びを見ても不思議と嫉妬はしなかった。モテて当たり前だと思っているし、天元が幼馴染の自分をそういう相手として扱わないのも当然だと分かっていたから。
 宇髄ガールズと同じ土俵に上がって相撲を取るつもりは毛頭ない。そんな自信も覚悟もない。たとえるなら私は、土俵を見ている観客。あーすごいなー強いなーたくましいなーと思いながら、ぼうっと見ているだけの、ノリの悪い観客。


「どこのお嬢サンかと思ったわ」

 別々の大学に進んだ私たちは、月に一度は互いの実家近くのファミレスで会った。待ち合わせ時間から少し遅れて到着した天元は、店の最奥のソファ席に座る私を見て目を丸くした。そうして長い足で一歩二歩と近づいて来ると、そう言って笑ったのだ。

「何? コンタクト?」
「うん、そ」

 言葉少なに返して、アイスティーのグラスに差したストローを指で挟む。
 天元はお冷を運んで来た店員のお姉さんにアイスコーヒーを頼む。「今日も暑いですね」なんて一言を添えながら。天元は別に、若い女性相手だからそんなリップサービスをするわけではない。お兄さんでもおばさんでもおじさんでも同じことをする。違うのは微笑み方だけ。女性には艶っぽさの滲む笑い方をする。女性といえども私には当然そんな笑み、向けたことないけど。

「なんでまた急に。大学デビューにしちゃ遅すぎんだろ」
「週末に海行くから、メガネだと不便かなって」
「海ねえ、海……えっ、海? は? 誰と」
「ゼミの人たちと」
「それって男女混合?」
「うん」
「あー、なるほど。ゼミで行くんならフィールドワーク的なやつか」
「いや、遊びだよ。ゼミで行くんじゃなくて、ゼミの人たちと行くの。遊び。教授は同行しないやつね」
「つってもどうせあれだろ、着衣水泳だろ? 災害訓練的な」
「水着だよ。買ったの。でもちょっと、露出しすぎかもなって」

 ストローでグラスの中をゆるゆると掻き回す。カランカラン、と鳴る氷。お待たせしました、と女性の声。アイスコーヒーが手元に置かれたことにも気づいていないのか、天元は瞬き一つせず私を凝視していた。

「ど、どんな水着?」
「なんで天元が動揺してるの。どんなって、んーまあ普通だよ。宇髄ガールズたちが着てそうなやつ?」

 天元の目はもう一段階大きくなった。

「そんなんほとんど裸じゃねーか」
「え、そうなの? 彼女たちの水着ってそんなに布面積小さいの?」

 思わず笑ってしまった。そうしながらストローを口に含む。天元はため息を吐き、テーブルに肘を突いて頭を抱えた。

「どうしちまったんだよ。何がお前をそうさせた? 親が見たら泣くぞ?」
「水着で海に行くぐらいでそんな非行少女扱いしないでよ」
「三つ編みメガネに膝下丈のスカートと白ハイソ履いてたお前はどこ行っちまった」
「その中で身に覚えがあるのメガネだけなんだけど」

 はあ、と大きな息を吐いた天元は、おもむろにアイスコーヒーを飲んだ。
 私は買ったばかりの水着を頭の中に浮かべる。そうして、夏の太陽の下、青い海であの水着を身に着けた自分を想像する。アンマッチな気がする。確かに天元の言う通り「どうしちまったんだ私」って感じがするのも、否めない。

「……スクール水着で行こうか迷ってる」
「スク水にしとけそんなの。……いや、それもまずいな。競泳用の水着とかにしとけ」
「そんなの持ってるはずないでしょ」


***


「……スクール水着じゃねーじゃん」

 人でごった返すビーチ。その中で頭二つ分ほど飛び抜けたサングラス姿の男は、不服そうに独りごちた。
 宇髄天元の視線の先には、波打ち際でビーチボールを抱えて笑っている幼馴染の姿が。フリルの付いた白のオフショルダーに、下は同じく白のパレオを巻いている。胸や尻が強調されるような水着じゃなくて良かったといくばくか安堵しつつも、谷間が見えるのは変わりないので、天元としては少しも面白くはない。
 彼女が不意に振り返ったので、天元は慌ててパラソルの影に身を隠した。一応変装はしてきたつもりだ。サングラスは黒フレームに橙色のレンズ。長髪は後ろで一つに結い上げ、頭にはタオルを巻き付けて髪色が見えないようにしている。アロハシャツだって、本来なら目が覚めるような配色のものが好みだが、暗めの色に地味目な柄のやつにした。
 天元が先日ファミレスで聞き出せたのは、水着の詳細ではなく、海水浴場の名前だった。「まさか来ないよね?」と疑る彼女に、「そんな暇じゃねーよ。週末はバイトだし」と嘘をついた。天元はバイトを休み、わざわざバイクを走らせて偵察しに来たのだ。物心ついた頃から惚れていた幼馴染が、どこの馬面野郎にどんな水着を見せるのか。
 ――そう。惚れている。多分、臍の緒が取れた頃から好きだったと天元は思っている。
 中学生の頃、「好きな人がいる」と言われて一度は人知れず失恋したが、他の女たちと遊んでも彼女を上回る存在はいなかった。特定の恋人を作らない理由もそこだ。本命はとっくの昔から決まってる。
 彼女には定期的に好きな男の有無を確認しているが、今は「いるけど、いない」らしい。そんなふわっふわな答え方しかできないような女は、男にぐいぐい押されたらすぐに流されてしまうだろう。それがタチの悪い男だった場合、骨の髄までしゃぶり尽くされて捨てられてしまう。絶対そうだ。馬鹿だよなあいつ。こんなイイ男が生まれながらにそばにいるってのに、惚れないなんて。ほんと、馬鹿だよな。

「うそうそうそうそ」

 天元は口を覆う。その視線の先には、腰に巻きつけていたパレオが外れて慌てる彼女が。パレオの下から現れたのは、なんとまあ、白の紐ビキニだった。
 慌てふためいてパレオを付け直そうとしている彼女に、ゼミの仲間であろう女子が「いいじゃんセクシーだよこのままでいなよ」なんて言いながらパレオを奪った。周りの男性陣は鼻の下を伸ばしている。
 ――許せない。天元は拳を握りしめ、パラソルの影から出た。上がフリルのオフショルなら下は布面積の広めなショーツが定番なんじゃないのか? なんで上はキュートで下はセクシーなんだよ? そのチグハグさがエロすぎんだろふさげんなマジで。

「え、天元?」

 動揺がもはや怒りと化していた天元は、そんな彼女の声でハッと我に返った。彼女は目をまんまるくして天元を見上げている。

「今日バイトなんじゃなかったの?」
「あー店長腹壊して店休みになった」
「それで海に来たの? 一人で?」
「いやデートだよデート。あーアイツどこ行っちまったのかなー?」

 大袈裟に言いながら辺りを見回す天元は、その視界の隅で彼女のゼミ仲間がパレオを握ってこちらを呆然と見つめているのを捉えた。他の面々も、突然現れたガタイの大きな天元を驚きと不信感に満ちた目で見つめていた。その様子を察した彼女は「幼馴染なの」とフォローを入れ、再び天元を見上げる。

「はぐれちゃったのかあ。一緒に探そうか? 特徴は? 写真ない? アナウンスしてもらう?」
「いやいい。もうどうでもいい。ていうかデートじゃない。一人で来た。そんなことより、だ」

 天元は、ゼミ女子の手からパレオをサッと取り上げ、彼女の腰に巻き付けた。鮮やかな手つき。目にも止まらぬ速さ。彼女は瞬き一つ打つ間のその出来事に、驚きの声を漏らした。
 あとは谷間だ。天元は睨むように彼女の白い膨らみとほんのり翳ったその狭間を確認すると、羽織っていたアロハシャツを脱ぎ、そうして彼女の肩に掛けた。前はしっかりとボタンで閉じ合わせる。

「馬鹿。そんな格好でうろうろすんなって」
「そんなって……海だもん、水着だよ、おかしい?」
「下着じゃねーかそんなもん」

 彼女は言い返そうと口を開けたが、眉根をかすかに寄せて目を細めたかと思えば、くちゅんっ、とくしゃみをした。

「はいクシャミ出た〜風邪の引き始め〜。オラ帰るぞ」
「えっ、ちょっ天元!」

 天元は腰をかがめ、抵抗する彼女の膝裏に腕を掛けると、ぐいっと持ち上げる。中学生ぶりのお姫さま抱っこだ。その光景に頬を赤らめたのは、彼女ではなく、周りで見ていたゼミの女子たちだった。男子は感心にも似た声を漏らしている。
 彼女はというと、目を開いたまま固まっていた。天元はそれを見て、プッと噴き出す。

「マグロみてえ」


***


 私はまさに市場から出荷されるマグロのようだった。抱えられたままバイクの後ろに乗せられ、言われるがままに天元の腰にしがみつき、潮風を割きながら海岸沿いの道を走って。気づけば見慣れた景色に変わっていて、天元が一人で暮らすマンションの駐車場にいた。そうして再び言われるままに天元の後を付いて歩き、彼の部屋に入った。

「ここが私の納品先……」
「何言ってんの? 頭やられたか?」
「私はマグロ。宇髄さんちにお届けされに参りました」
「だめだ。完全にイカレてるわ」

 そう言いながら、天元は冷えた麦茶のボトルを渡してくれた。私はソファに腰を下ろし、麦茶をがぶがぶと飲む。そんな私にちらりと目線をやった天元は、ちょいちょいと手招きする。

「俺にも。今うちにある飲み物、それだけなんだよ」
「えー? じゃあ水道水にしたらー?」
「俺の渇き切った喉を水道水が潤せるかよ」
「十分潤うでしょ」
「声質が変わったらどうすんだ。俺様の美声がよぉ」
「いやいや日本の水道水の質ナメちゃダメだよ、私いつも飲んでるよ」
「ごちゃごちゃうるせーな。それがいいんだよ、おらよこせ」

 天元は私の隣にどっかりと座ると、ペットボトルを引ったくった。
 天元の喉が上下に動いてる。ごくごくと飲み下されていく麦茶。ペットボトルにはもうほとんど残っていない。

「ていうか、なんで私ここに連れて来られたの? もっと海で遊びたかった」
「そりゃお前があんな妙な水着着てっからだよ」
「失礼な。……そんなに妙だった?」
「多分」
「なによ多分って」
「一瞬しか見てねーから、正直あんま記憶にない」
「はい? そんな曖昧な記憶で批評しないでよね。人が一生懸命選んだ水着を」
「ならちゃんと批評してやるから見せてみろ」

 迎え撃つ気満々で立ち上がり、上に羽織っていたアロハシャツを脱ごうとしたとき、ハッと我に返った。
 待て。海で水着姿になるのはまだ分かる。周りも肌を出してるから浮かないし。でも屋内で水着って、それはもうほとんど下着姿みたいなものなのでは?

「どうしたよ」
「……ん、っと、えー……」
「他の野郎の前では脱げるのに俺じゃ嫌だってか?」
「はい? えっ、天元、なんか怒ってる?」
「怒ってない」
「うそだ」
「いいから早く脱げよ。どんだけお前の裸見てきたと思ってんだ。今さら水着姿ごときでどうこう思わねーよ」
「いや裸って、それは小さい頃の話でしょ」
「いーから。ファッションチェックしてやるっつってんだろ」

 正直、内心とても悔しかった。
 天元は、私の水着姿を見たって何も思わないんだな。やっぱり天元にとって私は異性じゃなくて、単なる幼馴染なんだな。そう思うと悔しいし、悲しかった。

「ほらチェックしてよ」

 半ばやけくそになりながら脱ぎ捨てたアロハシャツは、ソファに座る天元の足元に落ちる。

「下も」

 天元は私を見据えたまま、静かにそう言った。
 上等じゃないかとばかりにパレオを取った私は、何も言わずにただじっとこちらに視線を寄越す天元を、睨むように見つめる。

「やっぱチグハグだな。オフショルに紐ビキニって、いや確かにそういう組み合わせもあるだろうけど、上がそれなら下は布面積広めのショーツかスカートが相場だろ。露出したいのかしたくないのか分からん。デザインも若干違うな。色味も。ほら白って二百色あるから。もしかして上下別々に買った?」

 この批評が永遠に続くのかと思ったら、突然そう問われたので、私は正直に「はい」と答える。

「……下だけ、買い直したの」

 そう、買い直した。天元に「スクール水着にしとけば?」と言われた日、私は閉店間際の水着売り場に駆け込んで、一番布面積が小さい紐ビキニを手に取った。流石に上下ともこの露出度高めな水着で行くのは憚られたので、上はもともと買っていたフリル付きのオフショルダーで、下だけ紐ビキニにしたのだ。

「なんでだよ」
「えっと……宇髄ガールズなら、こういうの履くのかなあって」

 天元に女として見てもらえる子たち。本当はすごく羨ましかった。私もそうなりたかった。だから、天元に見てもらう予定なんてないのに、パレオの下にそんな思いを隠しながら海へ行ったのだ。
 それがまさか、こんな。覆い隠してたはずのものを全部脱ぎ去って、穴が開くほど見つめられることになるだなんて。天元の言葉を借りるなら、下半身に至ってはもうほとんど裸だ。

「何おんなじ土俵に立とうとしてんだよ」

 天元は静かに口を開いた。その言葉に、私は俯く。

「……はは、ほんとだよねー。なにやってんだろうね、私ごときが」
「馬鹿だよな。お前はわざわざ土俵に上がる必要ねーんだっての」

 ゆっくりと顔を上げると、天元がちょいちょいと手招きをした。
 土俵に上がらなくていいって、一体どういう意味なんだろう。そんなことを思いながら近寄ると、天元は座ったまま、私の両手を握った。こちらを見上げる蘇芳色の瞳。私の好きな、天元の色。

「お前、今好きなヤツいんの?」
「……でっ、出たぁ、宇髄天元による定期点検、好きなヤツいんのかチェック」

 おどけながら言ってみたけれど、天元は笑わない。めずらしく真面目な顔をしている。
 そのシリアスな雰囲気につられて、私もつい声を落としてしまう。

「ずるいよ。いっつも私にだけ答えさせて」

 そうだ。天元はいつも私に好きな人の有無を確認するだけで、自分は何も答えない。「天元は?」と聞いても、「んー俺ってモテるからさ」なんて少しズレた回答をする。

「俺は」

 きゅっと、手を握られる力が強くなった。

「いる。ここに」

 えっどこに、と辺りを見回した私に、天元は「アホすぎる」と呆れたように笑った。
 この部屋には天元と私しかいない。

「私……?」

 声を潜める私に、天元は淡く笑む。そんな笑い方、初めて見るよ。

「で、お前は?」

 握られた手が震えそうになる。じわじわと理解していく。天元の好きな人が、私であるということを。
 一生幼馴染のままでいるんだと思ってた。天元が伴侶に選ぶ人なら間違いないだろうから、私は彼が笑ってるならそれで満足だから、だから天元が築いていく幸せのかたちを付かず離れずの距離から見ていられたらそれでもいいか、なんて思ってた。――でも、そっか。天元、私のこと、好きなんだ。

「私もいる。ここに」

 結局、ぷるぷると震えたのは手ではなく、声だった。
 うぐっ、と喉が詰まる。目から涙がこぼれ落ちる。天元は泣く私の体を抱き寄せ、自分の太ももの上に座らせた。かと思えば、背後からぎゅうっと抱きしめられる。硬い。あったかい。

「お前はわざわざ土俵に上がって宇髄ガールズと相撲取る必要なんかねーんだよ。臍の緒が取れたばっかの頃から、お前はずっと俺のここにいんだから。ていうかなんだよ宇髄ガールズって」

 涙でぐしょぐしょになりながら笑っていると、天元はそんな私の顔を覗き込んで、顎をくいっと持ち上げた。
 ちゅっ、とリップ音が響く。唇が重なっていることを理解したのは、天元が「しょっぱ」と言った後だった。ぺろりと自分の唇を舐めた天元は、再びキスをする。涙が伝った唇を割り、天元の舌が中に入ってくる。やわらかい。あったかい。
 ふっ、と湿った吐息が漏れてしまう。すると天元は舌を抜いて、私の瞼にキスを落とす。そうして耳元に口を寄せて、そっと囁いた。

「もっとよく見せて」

 天元の右手が私の太もももを下から上へと撫であげていく。たどり着いた先にあるビキニの紐に彼の指が絡まる。それを見下ろしながら、私はうんと頷き、天元の首に腕を回す。
 ほぼ裸というか、もう、ちゃんと裸だった。天元のおへそに指を入れると、「おい」という言葉が返ってくる。しかし彼はすぐに、私が「臍の緒が取れたての頃から」という言葉を思い返していることを察したのか、ふっと笑った。そうして私のおへそを手で覆いながら、じゅくじゅくに濡れそぼった下腹部に、熱を上げたそれをゆっくりと当てがうのだった。





(2025.08.15)


*えらさんからのリクエスト
「現パロで幼少期からの幼馴染。宇髄の恋愛遍歴も筒抜け。ヒロインは自分に自信がない。だけど実はずっと両片思い。宇髄が珍しく焦る出来事で進展からの甘々展開」
ありがとうございました!





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